涼宮ハルヒの鬱病
アイツが何かをやり始めると俺は大体胃が痛くなる。これはきっと何かの予知に違いない。俺も今日から超能力者ってか。馬鹿馬鹿しい。
「キョン!バイトを辞めるわよ!」
またか、ハルヒ。
お前は何回バイトをやめてどれだけバイトの人に迷惑をかければ気が済むんだ。
「やれやれ……お前はいつもそうだ! また鬱病になって寝込むんだろ!バイト辞めるの何回目だ!こっちの身にもなれ!」と俺が返すとハルヒは居心地の悪い顔を見せた。
またその顔をしやがって。そんな顔をされると反論をしにくくなる。
「うるさい! アンタは黙って私の意見に頷いとけばいいのよ!」
古泉は「キョンくんのせいでまたあちらこちらで閉鎖空間が出来てきてしばらくバイトが終わりそうにないですね」と皮肉を込めて俺に言ってきた。
良いじゃないか。お前の超能力とやらを見せれる機会が増えて万々歳だろ。
ていうか閉鎖空間が出来たのは俺のせいかよ。
ハルヒが機嫌が悪くなると大体世界がおかしくなる。そうしたら俺はハルヒに対して素直に頷いとけばいいのか? アホくさい。ご生憎お前ら奇人組と違って、ハルヒに対してイエスマンに俺はなれないそうにないんでね。
「……」
「なんか言えよ!」
「バイト、辞めたい」
長門、お前もか。
ていうか無口のお前がなんのバイトしてるんだよ。単純作業の工場勤務か?
「ふぇぇ~ん。シフト入れなかったら怒られたです……。バイト辞めたいです……」
朝比奈さんも朝比奈さんでいつものメイド服で泣いている。これが日常風景になっているということが恐ろしい事態である。
「僕だって行きたくないですよ!なんで超能力者ってだけでバイトに行かなくちゃいけないんですか!」
古泉、お前マジか。
超能力者になったことを今更後悔するのか。
「お、お前らどうしたんだよ!」
「……のせい」
よく聞き取れなかった。多分俺にとっては不都合なことが長門の口から出てきたと思う。
だから俺は聞かなかったことにした。
「……なんだって?」
「涼宮ハルヒがこう望んだ。だからこうなった」
このままいくとコイツらもハルヒのように鬱病になって寝込んじまってSOS団は俺だけになっちまうってわけか。
そうしてSOS団は終わり。
いや、SOS団は学生バイト軍団として昇華するんだろうな。
……それだけは嫌だ。なんだかんだ言って俺もコイツらといることにようやく愛着が湧いてきたんだから。
「どうすれば治るんだ?!」
「あなたもバイトをして鬱病になればいい」
「やめろ……それだけは嫌だ……」
「えへへ~、キョンさんもバイトばっかして寝込んじゃえばいいんですよ~」
ジリジリと責め寄ってくる朝比奈さんの服の隙間から星のホクロが見えた。
「……」
長門もだんだん俺によってくる。
「さぁ、こっち側へ……」
古泉も詰め寄ってくる。
来るな。
お願いだからこっちに来るな。
俺をそっち側に連れていこうとするな!
「あんたのせいだからね」と、ハルヒはそう言った。
「やめろーーー!!」
「ハッ!」
随分悪い夢を見た気がするな。
いつものように頭が重いし、ベッドから起き上がろうとすると涙が出てきそうになる。
「まぁ、いいか……」
気合でベッドから出て半開きの目を無理やりこじ開け今日の予定を見る。
今日で8連勤目か……。あと5連勤も残ってる。
まだまだ休みには程遠いな。
休みには何をしようか。夕方まで寝てしゃみせんと遊ぶのもいいかもしれない。でも休みは一日しかない。
そう思うと溜息が出そうになったが、溜息が出ると幸せが逃げると思ったので堪えた。
「きょんくん、ともだちー」と妹が言うので下に降りてみるとバイトの制服に着替えたハルヒがそこに立っていた。
「キョン!バイトに行くわよ!」
いつものセリフだ。8日連続でこの言葉を聞いている。
いい加減聞き飽きたが、それはハルヒには言わないことにした。
今日のシフトには誰が入っていたのだろうか。
ハルヒと俺、古泉、あと……長門さんかな。古泉はまぁ別にいい。でも長門さん一緒に入っても話すことないから苦痛なんだよな。もっと話しやすくて可愛い女の子と被れたら幸せなんだけど。
早く朝比奈さんと被らないかなーなんて思いながら妹が用意してくれていたバイトの用意を手に取った。
「はいはい……」
なんて言いながら俺はバイトへと向かった。
今日も11時間労働か……。